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高松地方裁判所 昭和61年(行ウ)3号 判決

高松市亀井町一〇番地の一〇

原告

株式会社高松大映劇場

右代表者代表取締役

詫間敬芳

右訴訟代理人弁護士

佐長彰一

吉田正己

立野省一

高松市天神前二番一〇号

被告

高松税務署長

小西宏

右指定代理人

佐藤公美

三谷久寿彦

戸島満義

香川俊夫

新田旭

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、

(一) 昭和五九年三月三〇日付けでした、特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請を認めない旨の通知処分

(二) 昭和五九年四月二三日付けでした、原告の昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの事業年度(以下「昭和五八年四月期」という。)分の法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

(三) 昭和五九年四月二三日付けでした、原告の昭和五八年四月期分の法人税についての更正及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、後者については、昭和六〇年六月三日付けの変更決定により減額された後のもの)

(四) 昭和六〇年六月三日付けでした、原告の昭和五八年四月期分の法人税についての過少申告加算税の賦課決定

を、いずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、昭和五七年三月一六日、その所有に係る香川県丸亀市塩屋町五丁目五九六番地二ほか四筆の雑種地合計二万一一八〇平方メートル(以下「本件土地」という。)を丸亀市及び丸亀市土地開発公社に代金七億四四一五万九三〇〇円で譲渡する契約を締結し、同月三〇日、その所有権移転登記を経由した。

(二)  原告は、右譲渡に関し、特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例を定めた租税特別措置法(昭和六〇年法律七号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六五条の八第一項の税務署長の承認を受けるため、租税特別措置法施行令(昭和五九年政令六〇号による改正前のもの。以下「措置令」という。)三九条の七第二〇項に基づき、昭和五七年六月三〇日、被告に対し、同日付きの「特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請書」(以下「本件第一申請書」という。)を提出した。

なお、原告は、右譲渡をした日を含む事業年度である昭和五六年五月一日から昭和五七年四月三〇日までの事業年度の決算において、右代金額のうち買換資産の取得に充てようとする額に差益割合を乗じて計算した七億二六七四万五〇〇〇円を特別勘定として経理し、同事業年度の所得の計算上、これを損金として処理した。

(三)  本件第一申請書には、措置法六五条の八第一項所定の一年の取得指定期間内に買換資産を取得することができないやむを得ない事情を説明しうる添付資料等の不足があったので、原告は、昭和五八年六月三〇日、本件第一申請書の補正書として、同日付けの「特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請書」(以下「本件第二申請書」という。)を被告に提出した。

(四)  被告は、原告に対し、昭和五九年三月三〇日付けで、申請書の提出が期限後であったとの理由により、特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請を認めない旨の通知処分(以下「本件延長不承認処分」という。)をした。

2(一)  原告は、昭和五八年四月期(昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの事業年度)分の法人税について、被告に対し、次のとおり申告等をした。

(1) 昭和五八年六月三〇日に、所得金額を〇円、還付金の額に相当する税額を五三八万九九五九円、翌期へ総り越す欠損金の額を二万一四七〇円とする確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出した。

(2) 昭和五八年一二月二二日に、所得金額を一五八八万一〇八二円、納付すべき税額を一七九万〇九〇〇円とする修正申告書(以下「本件修生申告書」という。)を提出した。

(3) 昭和五九年三月三〇日に、所得金額を〇円、翌期へ繰り越す欠損金の額を二万一四七〇円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

(二)  被告は、原告に対し、昭和五八年四月期分の法人税について、次のとおり処分をした。

(1) 昭和五九年四月二三日付けで、本件更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件更正理由がない旨の通知処分」という。)をした。

(2) 同日付けで、所得金額を六億八四四三万九七六〇円、納付すべき税額を二億九五四二万四三〇〇円とする更正(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を一五一三万円とする賦課決定(以下「本件第一賦課決定処分」という。)をした。

(3) 昭和六〇年六月三日付けで、本件第一賦課決定処分につき、過少申告加算税の額を一四七七万一〇〇〇円と変更(減額)する決定をした。

(4) 同日付けで、本件修正申告書の提出により納付すべき税額に係る過少申告加算税の額を三五万九〇〇〇円とする賦課決定(以下「本件第二賦課決定処分」という。)をした。

3(一)  原告は、以上の処分につき、次のとおり不服申立てをした。

(1) 原告は、昭和五九年六月二日に、本件延長不承認処分につき、被告に異議申立てをした。被告は、国税通則法(以下「通則法」という。)八九条一項により審査請求として取り扱うことを適当と認め、原告も同年八月二一日これに同意したので、同日審査請求がなされたものとみなされた。

(2) 原告は、昭和五九年六月二五日に、本件更正理由がない旨の通知処分、本件更正処分及び本件第一賦課決定処分につき、国税不服審判所長に審査請求をした。

(3) 原告は、昭和六〇年六月八日に、本件第二賦課決定処分につき、被告に異議申立てをした。被告は、通則法八九条一項により審査請求として取り扱うことを適当と認め、原告も同月一七日これに同意したので、同日審査請求がなされたものとみなされた。

(二)  国税不服審判所長は、昭和六一年四月二三日付けで、右各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

4  しかしながら、本件延長不承認処分、本件更正理由がない旨の通知処分、本件更正処分、本件第一賦課決定処分(ただし、昭和六〇年六月三日付け変更決定により減額された後のもの。以下同じ。)及び本件第二賦課決定処分は、いずれも違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、(三)を否認し(ただし、原告が昭和五八年六月三〇日に本件第二申請書を被告に提出したことは、認める。)、その余は認める。

2  請求原因2及び3の事実は、すべて認める。

3  請求原因4の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件延長不承認処分について

(一) 措置法六五条の八第一項によれば、同法六五条の七第一項の各号の上欄に掲げるものの譲渡につき特別勘定として経理した場合の買換資産の取得指定期間は、〈1〉原則的には、当該譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から同日以後一年を経過する日までの期間とされ、〈2〉同法六五条の七第三項に規定する政令で定めるやむを得ない事情があるため、右期間内に買換資産の取得をすることが困難である場合において、政令で定めるところにより税務署長の承認を受けたときは、買換資産の取得をすることができるものとして、同日後二年以内において当該税務署長が認定した日までの期間とされている。

そして、右の税務署長の承認を受けるためには、措置令三九条の七第二〇項により、〈1〉原則的には、当該譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度の開始の日から二か月以内に、申請書を所轄税務署長に提出しなければならないものとされており、〈2〉当該譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度の開始の日から二か月を経過した日以後に右のやむを得ない事情が生じたため、措置法六五条の八第一項に規定する取得指定期間内に買換資産の取得をすることが困難であることとなった場合には、当該事情の生じた日から二か月以内に申請書を提出しなければならないものとされている。

(二) しかるに、本件第二申請書は、後記(四)で述べるとおり、右の申請書提出期限後に提出されたものであるから、このことを理由に特別勘定の設定期間の延長を承認しなかった本件延長不承認処分は、適法である。

(三) 原告は、本件第二申請書が本件第一申請の補正書である旨を主張する。

しかしながら、本件第一申請書は、昭和五七年七月五日に原告が被告に提出した同日付けの取下書(以下「本件取下書」という。)により取り下げられており、本件第二申請書は、本件第一申請書とは別個の新たな申請書として提出されたものであるから、原告の右主張は失当である。

(四) 本件第二申請書は、措置令三九条の七第二〇項による申請書の提出期限後に提出されたものである。

(1) 本件第二申請書において「取得しようとする買換資産」として記載されているものは、別表の当該欄に記載のとおりであり、同申請書に添付された工事請負契約書の写しの記載事項及び被告が調査したところによれば、右各買換資産に係る工事の「契約の日」、「工事期間」及び「引渡しの日」は、それぞれ別表の当該欄に記載のとおりであって、右各買換資産は、いずれも税務署長の承認を受けていない場合の一年の取得指定期間(すなわち、本件土地の譲渡のあった日を含む事業年度の翌事業年度の開始の日である昭和五七年五月一日から、同日以後一年を経過する日である昭和五八年四月三〇日までの期間)内に引渡しを受けることができないことが明らかである。

(2) 本件のような工事請負契約にあっては、通常、その契約に至るまでの過程において引渡しを受けることができる日が逐次明らかとなり、工事の契約の日に至ってそれが確定的なものとなる。すなわち、換言すると、工事の契約に至るまでの過程において、取得指定期間内に買換資産を取得することが困難であることが逐次明らかとなり、工事の契約の日に至って、それが確定的なものとなるのが通常である。そうすると、措置令三九条の七第二〇項にいわゆるやむを得ない事情の生じた日とは、取得指定期間内に買換資産を取得することが困難であることが明らかとなった日、すなわち、遅くとも工事の契約の日であるというべきである。

(3) そして、措置令三九条の七第二〇項によれば、特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間の延長の承認を受けるための申請書は、右のやむを得ない事情の生じた日から二か月以内に提出すべきものとされているのであるから、前記(1)の各買換資産に係る右申請書の提出期限は、次表のとおりとなる。

〈省略〉

(4) ところが、本件第二申請書が被告に提出されたのは、昭和五八年六月三〇日であるから、右申請書は、提出期限後に提出されたものであることが明らかである。

2  本件更正理由がない旨の通知処分及び本体更正処分について

原告の昭和五八年四月期分の所得金額は、以下に述べるとおり、六億八四四三万九七六〇円であって、本件修正申告書に記載された所得金額(一五八八万一〇八二円)を超えるから、本件更正理由がない旨の通知処分は適法であり、また、原告の昭和五八年四月期分の所得金額を六億八四四三万九七六〇円とする本件更正処分も適法である。

(一) 原告の昭和五八年四月期分の所得金額は、本件確定申告書に記載された所得金額(〇円)に、次の(二)及び(三)の金額を加算し、これから(四)の金額を減算した六億八四四三万九七六〇円である。

(二) 固定資産圧縮損の損金算入否認額一五六四万六八八九円

(1) 措置法六五条の八第二項によれば、同条一項の規定の適用を受けた法人が、取得指定期間内に同項の特別勘定に係る措置法六五条の七第一項の表の各号の下欄に掲げる資産の取得をした場合において、当該取得の日から一年以内に、当該買換資産を当該各号の下欄に規定する地域内にある当該法人の事業の用に供したとき、又は供する見込みであるときは、当該買換資産につき、圧縮限度額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又は帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額を損金経理により引当金勘定に繰り入れる方法により経理したときに限り、その減額し、又は経理した金額に相当する金額は、当該買換資産の取得をした日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することとされている。

(2) 本件確定申告書に記載された所得金額の計算においては、高松市太田上町字寺の元五五五九番地一四所在の木造瓦葺二階建の建物八二・四〇平方メートルについて一四五二万三七九九円が、また、テックチケットレジスターMA一二五〇A及びテック電子レジスターMA五一〇各一個について一一二万三〇九〇円が、それぞれ右規定による固定資産圧縮損として損金に経理されている。

しかし、その計算の基礎となった資産の取得の日は、前者については昭和五八年七月一五日であり、後者については同年六月三〇日であって、これらはいずれも昭和五八年四月期において取得されたものではない。

(3) したがって、右各資産に係る固定資産圧縮損として損金に経理された金額の合計一五六四万六八八九円は、昭和五八年四月期の損金の額には算入されない。

(三) 買換資産特別勘定残額の益金算入額 六億六八八一万四三四一円

(1) 措置法六五条の八第四項二号によれば、同条一項の規定の適用を受けた法人が、取得指定期間を経過する日において特別勘定を有している場合には、当該特別勘定残額は、その日を含む事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することとされている。

(2) 本件確定申告書に記載された所得金額の計算においては、六億六八八一万四三四一円が買換資産特別勘定として経理されているところ、原告は、前記1で述べたとおり、本件土地の譲渡につき取得しようとする買換資産の取得指定期間の延長の承認を受けていないから、その取得指定期間は、本件土地の譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度の開始の日である昭和五七年五月一日から、同日以後一年を経過する日である昭和五八年四月三〇日までの期間であり、取得指定期間を経過する日は、昭和五八年四月三〇日である。

(3) したがって、原告が同日において有している措置法六五条の八第一項の規定による買換資産特別勘定の残額六億六八八一万四三四一円は、昭和五八年四月期の益金の額に算入される。

(四) 繰越欠損金の損金算入額 二万一四七〇円

本件確定申告書において翌期へ繰り越す欠損金として記載された二万一四七〇円は、昭和五八年四月期の所得の金額が増加したことにより、右事業年度の損金の額に算入される(法人税法五七条)。

3  本件第一・第二賦課決定処分について

(一) 右2のとおり、本件更正処分は適法なものであり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした本件第一賦課決定処分は、適法である。

(二) なお、本件第一賦課決定処分について、請求原因2(二)の記載の変更(減額)決定をした事実は、次のとおりである。

すなわち、本件第一賦課決定処分は、本件更正処分に伴ってなされたものであるから、本件更正処分による納付すべき税額である二億九五四二万四三〇〇円を基礎として過少申告加算税の額を計算すべきであったのに、右納付すべき税額に、本件修正申告書の提出による納付すべき税額である七一八万〇八五九円(本件確定申告書に記載された還付金の額に相当する税額五三八万九九五九円と、本件修正申告書に記載された納付すべき税額一七九万〇九〇〇円との合計額)を加えた金額を基礎としてこれを計算していた。そこで、被告は、本件第一賦課決定処分につき、昭和六〇年六月三日付けで、過少申告加算税の額を本件更正処分による納付すべき税額を基礎として計算した額(一四七七万一〇〇〇円)に変更する決定をしたものである。

(三) 原告の昭和五八年四月期分の所得金額は、前記2で述べたとおりであるから、本件修正申告書は、それに記載された所得金額及び納付すべき税額について更正(減額更正)をすべき理由がないものであり、本件修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が修生申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした本件第二賦課決定処分は、適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張中、2(本件更正理由がない旨の通知処分及び本件更正処分について)(二)の(2)の事実を認めるが、その余は認めない。

2  被告は、本件第一申請書が本件取下書により取り下げられている旨を主張するが、次の3で述べるとおり、右主張は失当であり、本件第二申請書は、本件第一申請書の補正書であるにすぎない。したがって、本件第二申請書を本件第一申請書とは別個の新たな申請書と解した上で、それが提出期限後に提出されたことを理由としてなされた本件延長不承認処分は違法であり、同処分が違法である以上、原告が取消を求めているこの余の処分もすべて違法である。

3  原告が本件第一申請書について本件取下書を被告に提出するまでの経緯は、次のとおりであって、右取下書の提出は、被告側の信義則に違反する行為によりなされたものとして無効であるから、本件第一申請書による特別勘定の設定期間延長承認申請は、そのまま効力を有するものである。

(一) 被告は、昭和五七年六月三〇日に本件第一申請書を受理したが、被告の担当者は、右申請書が不備であるとの理由で、原告にこれを取り下げるよう要求してきた。

(二) しかしながら、本件第一申請書は、税務当局所定の書式に則り、法令に定められた事項を完全に記載して作成した上、所定の期間内に提出したものであって、何ら不備なものではないから、右取下げ要求は、明らかに不当なものである。

なお、原告が本件土地の譲渡につき買換資産として取得しようとした物件は、別表の「取得しようとする買換資産」欄に記載のとおりであるが、そのうち最も主体的なものは、ソレイユ第一ビルの建物であるところ、その工事の「契約の日」は、同表の当該欄記載のとおり昭和五七年八月三一日であり、本件取下書の提出日である同年七月五日には、いまだ契約成立には至っていなかったものの、成立に至る最終段階にあって、その内容も具体化していたものである。

(三) 仮に、本件第一申請書の記載内容のみでは、被告が取得指定期間の認定をするについて不備な点が幾分かはあったとしても、当時においては、右に述べたとおり、右建物につき工事請負契約が締結される直前の状態にあって、申請内容も具体化していたのであるから、不備な点を補充させて賄うことが十分に可能であった。したがって、被告としては、指導をなす必要があるとすれば、当然、その補充をさせることを指導すべきであり、取下げを要求するなどということは、もってのほかである。

(四) しかるに、被告の担当者は、本件第一申請書は不備であるから取り下げるよう執拗に要求し、「取り下げなければ却下処分にする。」と述べるなど、高圧的態度で取下書の提出を強要してきたため、原告は、やむなく、本件第一申請書の提出日から五日後の昭和五七年七月五日、本件取下書を被告に提出したものである。

(五) なお、原告がその後本件第二申請書を提出したことについては、次のとおりである。

すなわち、本件第一申請書については、その取下書が提出されているとはいえ、それは以上に述べたような被告側の信義則に違反する行為によってなされたものとして無効であるから、本件第一申請書は、依然としてその効力を有しており、したがって、改めて同様の申請書を提出する必要はなかったものであるが、本件第一申請書には資料の添付もなく、また、その後内容的に変動したものも出てきたので、これを補正する必要が生じたため、その補正書として、本件第二申請書を提出したものであって、本件第二申請書は、本件第一申請書を取り下げたことによる新たな申請書として提出したものではない。

五  原告の反論に対する被告の再反論

1  本件第一申請書の不備について

(一) 本件第一申請書は、以下に述べるとおり、形式的に不備なものである。

(1) 措置法六五条の八第一項の括弧書きの規定によれば、これに規定されている税務署長の承認においては、延長すべき取得指定期間を具体的に認定しなければならないものとされていることが明らかである。

(2) そうすると、措置令三九条の七第二〇項に規定する申請書は、税務署長の具体的な取得指定期間の認定を受けるためのものであるから、その記載事項については、例えば、〈1〉「取得をしようとする買換資産の種類、構造、規模及び価額」については、工事請負契約書その他の資料によって客観的に種類、構造、規模等その資産の内容が特定されうるとともに、価額(これは、税務署長の承認に伴って設定期間が延長されることとなる特別勘定の金額の計算の基礎となるものである。)についても、合理的に算定されたものでなければならないし、〈2〉「(措置)法六五条の八第一項に規定するやむを得ない事情の詳細」については、既に存在し、又は客観的、合理的な判断により確実に発生することが予測される事情であることを要し、また、〈3〉「買換資産の取得予定年月日」及び「認定を受けようとする年月日」についても、取得しようとする買換資産の内容とやむを得ない事情の状況とあいまって、合理的に予測されるところによるべきであるなど、厳格な記載が求められるのはもとより、単にそれらが記載されているにとどまらず、進んでその記載事項が正当であることを証する事実を併せて記載するか、若しくは資料として添付することを要するものと解すべきである。(これらの記載若しくは資料の添付がない場合においては、税務署長は当然に補正を求めることとなる。)。

(3) これを本件第一申請書についてみると、右申請書には、〈1〉取得しようとする買換資産の内容については、鉄筋コンクリートの建物二六六〇平方メートルを七億四五〇〇万円で高松市亀井町において取得する旨を、〈2〉買換資産の取得予定年月日及び認定を受けようとする年月日については、いずれも昭和五九年四月三〇日である旨を、また、〈3〉設定期間の延長を必要とする理由については、「テナント獲得において大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律(以下「大店法」という。)の適用があり、認可までに時間がかかる予想のため。」、「建築工期が一年以上の月数を要する。」とそれぞれ記載されており、この限りにおいては、措置令三九条の七第二〇項に規定する事項をすべて記載しているといいうるとしても、その記載事項が正当であることを証する事項については何らの記載がなく、また、何らの資料の添付もないなど、被告による記載事項の当否の検討を著しく困難ならしめているのであるから、右申請書は、延長すべき取得指定期間の認定を受けるためには不備なものというべきである(ちなみに、原告は、本件第二申請書については、その記載事項が正当であることを証する資料として工事請負契約書等の写し八通を添付している。)。

(二) のみならず、本件第一申請書は、以下に述べるとおり、実質的要件の点でも不備なものである。

(1) 原告が前記四3の(二)のとおり「本件土地の譲渡につき買換資産として取得しようとした物件・・のうち最も主体的なものは、ソレイユ第一ビルの建物である」旨主張していることからすれば、本件第一申請書は、右建物等の取得を前提として提出されたものというべきである。

(2) しかしながら、〈1〉ソレイユ第一ビルに係る建築確認申請書は、昭和五七年七月三〇日に高松市長に提出され、これに対する建築確認通知は、同年八月二〇日付けでなされていること、〈2〉ソレイユ第一ビルの建物の建築工事を請負った株式会社大林組四国支店に対する現場説明は、昭和五七年八月一一日に行われ、同支店からの見積書は、同月二三日に原告に提出されていること、〈3〉本件第一申請書の記載内容につき、〈ア〉現実に工事請負契約がなされた後に算定されたソレイユ第一ビルの見込取得価額は、五億三六八八万円であるのに、右申請書ではこれが七億四五〇〇万円と記載されていること、〈イ〉ソレイユ第一ビルの建物の工事請負契約に係る取得予定年月日は、昭和五八年九月三〇日であるのに、右申請書ではこれが昭和五九年四月三〇日と記載されていること、〈ウ〉ソレイユ第一ビルの建物は、その完成後、大部分を小売業(飲食店業を除く。)を営むための店舗以外の用に供し、又は供させているのであるから、大店法の適用がないものであるのに、右申請書には、設定期間の延長を必要とする理由の一つとして、「テナント獲得において大店法の適用があり、認可までに時間がかかる予想のため。」と記載されていること、以上のような事実に照らすと、本件第一申請書が提出された昭和五七年六月三〇日の時点においては、単にソレイユ第一ビルに相当する建物を取得しようという構想ないしは抽象的な計画があったというにとどまり、工事請負契約書その他の資料による合理的な買換資産の価額の算定及び取得予定年月日の予測をなしえず、また、買換資産の用途も確定していないなど、右申請書の各記載事項は、全く具体化していなかったものというべきである。

(3) そうだとすると、このような状況の下で作成・提出された本件第一申請書は、それ自体、延長すべき取得指定期間の認定を受けるための要件を備えていないものといわざるをえない。

2  本件取下書の提出の経緯等について

(一) 本件取下書が提出されるまでの経緯は、次のとおりである。

すなわち、被告の所部係官大林行禮は、本件第一申請書の提出日(昭和五七年六月三〇日)から一日ないし二日を経過したころ、原告の税務代理人須崎武夫の使用人石井健造に対し、右申請書につき、その記載事項が正当であることを証する事実の記載がなく、また、何らの資料の添付もないなどの不備な事項について説明して補正を求めたところ、同人からは、それを須崎武夫に伝えた上で対処する旨の回答があり、更に一日ないし二日を経たところ、石井健造が出署して、右申請書の記載事項につき、工事請負契約も行われていないなど具体化していないものである旨を申し出たため、大林行禮は、石井健造に対し、右申請書によっては延長すべき取得指定期間の認定ができないことを伝えるとともに、これを取り下げるか否かを検討するよう求めたところ、同人からは、工事請負契約が結ばれるなど取得しようとする買換資産が具体化した上で改めて申請書を提出する旨の回答があり、このような過程を経て、昭和五七年七月五日、原告から本件取下書が提出されたものである。

(二) 原告は、前記四3のとおり、〈1〉本件第一申請書は何ら不備なものではなく、仮に不備な点が幾分かはあったとしても、その点を補充させて賄うことが十分に可能であったのに、〈2〉被告の担当者は、右申請書は不備であるから取り下げるよう執拗に要求し、「取り下げなければ却下処分にする。」と述べるなど、高圧的態度で取下書の提出を強要した旨主張する。

しかしながら、本件申請書が形式的に不備であるばかりか、延長すべき取得指定期間の認定を受けるための実質的要件を備えていなかったことについては、前記1で述べたとおりであるから、原告の右〈1〉の主張は失当である。また、本件取下書の提出に至る経緯は、右(一)に述べたとおりであって、原告の右〈2〉の主張のような事実は存在しない(被告としては、原告が取下書の提出に応じなかったとしても、延長申請を認めない旨の通知処分をすれば足りるのであるから、取下書の提出を強要する必要性などは全くない。)。

(三) そして、右(一)の事実によれば、被告の所部係官大林行禮は、本件第一申請書につき、その記載事項が正当であることを証する事実の記載がなく、また、何らの資料も添付されていないことから、いったんはそれらの資料の提出を求めて不備な点を補充させようとしたが、石井健造がその記載事項は具体化していない旨を申し出たため、右の方法による補充をなしえないものであることを認識し、補充させることを断念して、右申請書を取り下げるか否かの検討を求めたものであるから、これらはいずれも適切な措置であったというべきである。

(四) 以上のとおりであるから、本件取下書の提出が被告側の信義則に違反する行為によりなされたものとして無効である旨の原告の主張は失当であり、本件第一申請書は、本件取下書により有効に取り下げられているものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の(一)、(二)及び(四)の事実と、同(三)の事実中、原告が昭和五八年六月三〇日に本件第二申請書を被告に提出したこと並びに請求原因2及び3の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、本件延長不承認処分の適否について判断する。

1  前記当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は、請求原因1の(一)記載の本件土地の譲渡に関し、措置法六五条の八第一項による特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間の延長の承認を受けるため、昭和五七年六月三〇日、被告に本件第一申請書を提出したこと、しかし、右申請書については、同年七月五日、原告から被告に本件取下書が提出されたこと、その後の昭和五八年六月三〇日、原告から被告に本件第二申請書が提出されたこと、これに対し、被告は、右申請書が措置令三九条の七第二〇項所定の申請書提出期限後に提出されたことを理由に、本件延長不承認処分をしたこと、以上の事実が明らかである。

2  被告は、本件第一申請書が本件取下書により取り下げられていることを前提に、本件延長不承認処分が適法である旨主張するのに対し、原告は、本件取下書の提出は、被告側の信義則に違反する行為によりなされたものとして無効である旨主張するので、この点について検討する。

(一)  成立に争いのない乙第一、第二号証、乙第五、第六号証、証人大林行禮及び同石井健造の各証言、原告代表者の本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、従前から、その決算書の作成や税の申告等の事務を公認会計士の須崎武夫に依頼しており、本件土地の譲渡に関して措置法六五条の八第一項の税務署長の承認を受ける手続についても、昭和五七年四月ころ、これを須崎武夫に依頼した。右依頼を受けた須崎武夫は、その税理士業務の補助者として昭和四六年ころから原告に関する事務を担当していた石井健造(以下「石井」という。)に、前記承認申請手続に関する事務を処理させることとした。そこで、石井は、特定の資産の買換えの場合における特別勘定の設定期間延長承認申請書の用紙を高松税務署で入手した上、原告の代表取締役社長詫間敬芳(以下「詫間社長」という。」から聴取したことを右用紙に書き込み、それに同社長の記名押印をしてもらって本件第一申請書(乙第一号証)を完成させ、昭和五七年六月三〇日、これを高松税務署に提出した。

(2) 本件第一申請書には、「取得しようとする買換資産の内容」につき、高松市亀井町において鉄筋コンクリートの建物二六六〇平方メートルを七億四五〇〇万円で取得する旨が、「買換資産の取得予定年月日」及び「認定を受けようとする年月日」につき、いずれも昭和五九年四月三〇日である旨が、また、「設定期間の延長を必要とする理由」につき、「テナント獲得において大店法の適用があり、認可までに時間がかかる予想のため。」、「建築工期が一年以上の月数を要する。」旨がそれぞれ記載されていたが、これらの記載事項について、建物の工事請負契約の内容等の具体的記載は一切なく、また、何らの資料も添付されていなかった。

ちなみに、本件第一申請書は、後に原告の発注により現実に建築されるところとなったソレイユ第一ビルの建物等を本件土地の買換資産として取得することを前提に作成されたものであったが、右建物につき、〈1〉その建築確認申請がなされたのは、昭和五七年七月二〇日、〈2〉その建築工事を請負った株式会社大林組四国支店が現場説明会に出席した日及び設計図を受領した日は、いずれも同年八月一一日、〈3〉同支店が原告に見積書を提出した日は、同月二三日、〈4〉同支店と原告が請負契約を締結した日は、同月三一日であって、本件第一申請書が高松税務署に提出された同年六月三〇日の時点では、いまだ、その建築工事についての見積書も出されていない段階にあった。

(3) 本件第一申請書を受理した高松税務署では、当時法人第一係に勤務していた大林行禮(以下「大林」という。)が、その事務処理を担当することになった。

大林は、前記のとおり、本件第一申請書に工事請負契約の内容等の具体的事項の記載がなく、また、何らの資料も添付されていなかったところから、その記載事項の当否を審査をすることができなかったため、昭和五七年七月二日ころ、須崎武夫の事務所に電話をしたところ、石井が原告の担当者であるとして右電話に出たので、同人に対し、本件第一申請書のままでは延長すべき取得指定期間の認定ができないので工事請負契約書、見積書を添付するなどして、本件第一申請書を補正するよう須崎武夫に伝えてもらいたい旨依頼した。

(4) その後、昭和五七年七月五日になって、石井が高松税務署に来たので、大林は、本件第一申請書のままでは延長すべき取得指定期間の認定ができないから工事請負契約書、見積書等証明書類を添付して本件第一申請書を補正する必要がある旨を再度石井に説明した。ところが、これに対する石井の応答によると、見積書はまだできていないとのことであり、それができるのはいつごろになるというような事情の説明もなかったため、大林は、本件第一申請書に記載された買換資産の取得はまだ具体化していないものであると判断し、石井に対し、措置法関係法令集を見せた上、まだ相当期間があるので、一応取り下げて、工事請負契約書ができた時点で申請書を提出されてはどうかと話した。これに対し、石井は、須崎武夫に伝えておく旨返答して高松税務署を出たが、その日の午後、再び同税務署を訪れて、大林に本件取下書(乙第二号証)を提出した。

(5) 本件取下書は、同日、石井が本件第一申請書を取り下げる旨自分で書いたものに、須崎武夫とも相談の上、詫間社長に記名押印をしてもらって完成させたものである。その際、詫間社長は、石井から、本件第一申請書は不備であるので取り下げなければ却下になると税務署で言われた旨聞かされたため、いったん取り下げても改めて申請書を出し直すことができることを石井に確認した上で、右の記名押印をしたものであった。なお、石井は、大林から言われたとおり、後日改めて申請書を提出するつもりであったもので、その予定どおり作成・提出されたものが提出されたものが本件第二申請書である。

以上のとおり認められる。証人石井健造の証言中、大林が石井に対し、工事請負契約書の添付がないままでは本件第一申請書は却下処分になるが、それではお宅の方が困るだろうから取り下げてもらいたいなどと述べて、取下書の提出を強要したようにいう部分その他右認定に牴触する部分は、証人大林行禮の証言に照らしてたやすく措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  以上認定の事実によれば、本件第一申請書には、それに記載された事項が正当であるか否かを審査するのに必要な資料の添付がなく、他に右記載事項の正当性を確認する手がかりとなるようなものもなかったのであるから、大林が工事請負契約書、見積書等を添付するなどして本件第一申請書を補正するよう求めたのは、適切な措置であったというべきであるし、右補正の指導に対し石井が応答したところによれば、直ちに補正することができず、それがいつになればできるか明らかでなかったのであるから、大林が申請書の再提出に言及しつつ本件第一申請書の取下げを勧告した所為が、妥当性を欠くものということはできない。その他、本件取下書の提出が原告の主張するように被告側の信義側に違反する行為によりなされたことを肯認するに足る証拠はない。

(三)  そうすると、本件第一申請書は、本件取下書により有効に取り下げられたといわなければならない。したがって、右取下書の提出は無効であって、本件第一申請書による申請書は依然として有効であり、本件第二申請書は本件第一申請書の補正書にすぎないとする原告の主張は、これを採用することができない。

3  次に、本件第二申請書が措置令三九条の七第二〇項所定の申請書提出期限後に提出されたものであるか否かについて検討する。

(一)  措置法六五条の八第一項によれば、同法六五条の七第一項の表の各号の上欄に掲げるものの譲渡につき特別勘定として経理した場合の買換資産の取得指定期間は、原則的には、当該譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から同日以後一年を経過する日までの期間とされているところ、この期間につき、同法六五条の七第三項に規定する政令で定めるやむを得ない事情(措置令三九条の七第一一項により、「工場、事務所その他の建物、構築物又は機械及び装置の敷地の用に供するための宅地の造成並びに当該工場等の建設及び移転に要する期間が通常一年を超えると認められる事情その他これに準ずる事情」とされている。)があるため、右の期間内に買換資産の取得をすることが困難である場合において、政令で定めるところにより税務署長の承認を受けたときは、買換資産の取得をすることができるものとして、右一年を経過する日後二年以内において当該税務署長が認定した日までの期間に延長されるものとしたのが、措置法六五条の八第一項の括弧書きの規定である。

右の税務署長の承認を受けるための手続を定めた措置令三九条の七第二〇項によれば、右承認を受けるためには、原則的には、当該資産の譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から二か月以内に申請書を提出しなければならないが、右二か月を経過した日以後に、右のやむを得ない事情が生じたため、措置法六五条の八第一項に規定する取得指定期間内に買換資産の取得をすることが困難であることとなった場合には、当該事情の生じた日から二か月以内に申請書を提出すべきものとされている。

(二)  本件第二申請書が提出されたのが昭和五八年六月三〇日であることは、前記一のとおり当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、本件土地の譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度開始の日は、昭和五七年五月一日であることが認められるから、本件第二申請書は、同日から二か月を経過した日以後に前記やむを得ない事情が生じたため、原則的な取得指定期間(すなわち、右翌事業年度開始の日である昭和五七年五月一日から、同日以後一年を経過する日である昭和五八年四月三〇日までの期間)内に買換資産を取得することが困難であることとなったものとして提出されたものと解するほかはない。

(三)  ところで、成立に争いのない乙第三号証に成立の争いのない乙第四号証を総合すれば、本件第二申請書(乙第三号証)において「取得しようとする買換資産」として記載されているものは、別表の当該欄に記載のとおりであり、同申請書に添付された工事請負契約書の写しの記載によると、右各買換資産に係る工事の「契約の日」、「工事期間」及び「引越しの日」は、それぞれ別表の当該欄に記載のとおりであることが認められる(ただし、その記載のうち、ソレイユ第一ビルの建築物に係る「契約の日」は、当該契約書の写しに日付の記載がないので、三菱電機株式会社四国支社が高松国税局長の照会に回答したところによる。なお、乙第三号証中のソレイユ第一ビルの建物の四階設計変更に伴う増築工事に係る契約書には、工事着手の日が昭和五七年四月二〇日と記載されているが、この記載は昭和五八年四月二〇日の誤記と解される。)。

右に認定した「工事期間」や「引渡しの日」に徴すれば、右各買換資産は、いずれも右(二)で述べた取得指定期間(昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの期間)内に取得することができないことが明らかであり、また、そのことは、格別の反証がない限り、右各「契約の日」までには明らかになったものと解するのが相当であるところ、その反証はない。

(四)  そうすると、右各買換資産の取得につき前記やむを得ない事情の生じた日は、遅くとも、右各「契約の日」であるというべきであるから、これに係る措置令三九条の七第二〇項の申請書の提出期限は、被告の主張1(四)の(3)に掲げる表に記載のとおりになるところ、本件第二申請書が提出されたのは、これよりも後の昭和五八年六月三〇日であるから、同申請書は、右提出期限後に提出されたものであることになる。

4  以上によれば、本件第二申請書が申請書の提出期限後に提出されたことを理由としてなされた本件延長不承認処分は適法であり、その取消を求める原告の請求は理由がない。

三  次に、本件更正理由がない旨の通知処分及び本件更正処分の適否について判断する。

1  前掲乙第三号証及び弁論の全趣旨によると、本件確定申告書に記載された所得金額の計算においては、本件土地の譲渡に関し六億六八八一万四三四一円が、措置法六五条の八第一項の規定による買換資産特別勘定として経理されていることが認められるところ、右二で判断したところから明らかなとおり、原告は、本件土地の譲渡につき取得しようとする買換資産の取得指定期間の延長の承認を受けていないものであるから、その取得指定期間は、右二3の(二)で述べたとおり、昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの期間であり、取得指定期間を経過する日は、昭和五八年四月三〇日である。そうすると、右六億六八八一万四三四一円は、措置法六五条の八第四項二号により、原告の昭和五八年四月期分の所得金額の計算上、益金の額に算入されるものである。

2  被告の主張2(二)の(2)の事実、すなわち、本件確定申告書に記載された所得金額の計算においては、高松市太田上町字寺の元五五九番地一四所在の木造瓦葺二階建の建物一棟八二・四〇平方メートルについて一四五二万三七九九円が、また、テックチケットレジスターMA一二五〇A及びテック電子レジスターMA五一〇各一個について一一二万三〇九〇円が、それぞれ措置法六五条の八第二項の規定による固定資産圧縮損として損金に経理されていること、しかし、その計算の基礎となった資産の取得の日は、前者については昭和五八年七月一五日、後者については同年六月三〇日であって、これらはいずれも昭和五八年四月期において取得されたものではないことは、当事者間に争いがない。そうすると、右各資産に係る固定資産圧縮損として損金に経理された金額の合計一五六四万六八八九円については、措置法六五条の八第二項の適用がないものであるから、右金額は、原告の昭和五八年四月期の損金の額には算入されないものである。

3  本件確定申告書において二万一四七〇円が翌期へ繰り越す欠損金とされていることは、前記一のとおり当事者間に争いがないところ、右金額は、右1、2のとおり原告の昭和五八年四月期分の所得金額が増加するので、法人税法五七条により、右事業年度の損金の額に算入される。

4  以上の結果、原告の昭和五八年四月期分の所得金額は、本件確定申告書に記載された所得金額(〇円)に、右1の六億六八八一万四三四一円と右2の一五六四万六八八九円を加算し、これから右3の二万一四七〇円を減算した六億八四四三万九七六〇円となる。

5  そうすると、原告の昭和五八年四月期分の所得金額(六億八四四三万九七六〇円)は、本件修正申告書に記載された所得金額(一五八八万一〇八二円)を超えるから、本件更正理由がない旨の通知処分は適法であり、また、原告の昭和五八年四月期分の所得金額を六億八四四三万九七六〇円とする本件更正処分も適法であって、右各処分の取消を求める原告の請求は、いずれも理由がない。

四  最後に、本件第一・第二賦課決定処分の適否について判断する。

右三のとおり、本件更正処分は適法なものであり、また、本件修正申告書は、それに記載された所得金額及び納付すべき税額について、更正(減額更正)をすべき理由がないものである。そして、本件第一賦課決定処分(ただし、昭和六〇年六月三日付け変更決定により減額された後のもの)に関し、本体更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の計算の基礎とされていなかったことについて、また、本件第二賦課決定処分に関し、本件修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、いずれも通則法六五条四項に規定する正当な理由があると認むべき証拠はない。そうすると、本件第一・第二賦課決定処分の取消を求める原告の請求は、いずれも理由がない。

五  以上の次第で、原告の本件請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邊貢 裁判官 水島和男 裁判官 小田幸生)

別表

〈省略〉

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